もう十数年前、中学生の頃の話だけどいまだに忘れられない。
虫歯ができて、近所の個人経営の歯医者さんに通っていた。
40歳ぐらいの優しい先生が治療してて、奥さんが受付。

ある日、治療に行き、待合室で雑誌読みながら待っていた。
治療室の方からは『ウイーン』ってあの機械の音。
そしたら

「ウワアアアアアア!ギャアアアアア!」

って聞いたこともないような女の人の悲鳴が聞こえてきてさ。

「ドタバタン!」

って音がして、治療室のドアが

「バーン!」

って開いて、50代くらい?のおばちゃんが飛び出してきた。
顔の下半分が真っ赤。
口からダラダラ血を吐きまくり、訳のわからないことを叫びながら泣き叫んでた。




そしたら後ろから先生が

「待て!この(聞き取れず)が!」

とか叫びながら出てきた。
手にはあの歯を削る機械。
電線?が途中でちぎれたのを持ったまま。

先生は怒鳴りながら泣き叫ぶおばちゃんを捕まえ、床に押し倒して口に機械をゴリゴリ突っ込んでた。
奥さんと待合室にいた近所のおっちゃんとが慌てて先生を引き剥がしたけど、先生は大声で訳のわからないことを叫びながら、おばちゃんをガシガシ踏みつけてた。

おっちゃんが先生を床に押さえつけている間に、奥さんが救急車を呼んだ。
おばちゃんは倒れたまま、泣きながら呻きながら口から血をだらだら流してる。

中学生の私はもう怖くて怖くて何もできず、ガタガタふるえてた。
おばちゃんは救急車で運ばれ、私も騒ぎを聞いてやってきた母と一緒に帰った。
だから先生がその後どうなったかは見ていないが、ご近所のことなんで、その後いろんな話を聞いた。

先生とおばちゃんは遠い親戚で、おばちゃんは先生に、なんか色々と嫌がらせというか、たかりみたいなことをしていたらしい。
先生もストレスでちょっと変になっていたみたいで、治療中に何かでキレて、おばちゃんの歯や口の中を、歯を削る機械でむちゃくちゃに切り刻んだらしい。

先生は逮捕、おばちゃんは歯も歯ぐきもむちゃくちゃにされて、結局総入れ歯とか聞いたけど、こっちは本当かどうかわからない。
子供心には、血まみれで泣き叫ぶおばちゃんの顔と、あの優しかった先生の豹変した顔がしばらく夢に出てきて泣くぐらい恐ろしかった。

その歯医者さんは翌日から休診になり、自宅の1階が病院になってたんだけど、一週間ぐらいして引越し屋さんのトラックが来て荷物を運び出してた。
奥さんの姿は結局見なかった。

1ヶ月ぐらいして別の歯医者さんが開業したけど、あの待合室の光景や悲鳴を思い出しちゃってその歯医者さんには行けなかったよ。
今通ってる歯医者さんは文句なしなんだけど、今でも歯医者さんの待合室や、あの機械の音はなんか苦手だ。