東日本大震災の時の話。
うちの家族は被災地に住んでて、震災から一週間くらい経ってたけどまだガソリンもガスも通ってなくて、食べ物だって簡単には手に入らなかった。

会社の同期で震災の日に他県に出張に行ってた奴がいて、交通手段もなくてしばらく戻ってこれなかったんだけど、そいつも家族がいるし心配だから、社用車で無理して何時間もかけて戻ってきた。
で、そいつが会社に戻って来た日は俺は休みだったんだけど、彼が俺に電話してきて、

「今やっとこっちに戻ってきたんだけど、荷物が多くて家まで帰られない。申し訳ないんだけど、車で送ってもらえない?」

って言ってきたんだ。
俺はその頃はまだ彼のことを悪く思ってなかったし、家族を残して一週間も家を空けていたことは可哀想にも思ったから自分の車を出して会社までそいつを迎えに行って、そこから20分くらい離れた奴の家まで送って行ったんだ。
ホントに好意で快くだよ。

車のトランクにはそいつが他県で買い込んできた缶詰やら食い物を詰めた段ボールが載ってる。
ちなみに会社からそいつんちまでの電車はその時すでに運行を再開してたから、帰ろうと思えば電車で帰れたんだけどね。
彼の家に着いたら

「上がってく?」

って聞かれたから特に意味もなく上がったんだけど、何か出される訳でもなく、彼からも奥さんからも特に畏まった礼もなく、10分ほど話して

「じゃあ帰るわ」

って言って帰ってきたんだ。




それから1週間ほど経った後。
まだガソリンもガスも通っておらず、2週間近く俺も妻も風呂に入れていなかった。

あの頃うちの周りや会社の人達は皆同じような状況だったと思うけど。
車で送ってあげた同期が何回か

「俺の家は湯沸かしポットが二台あって、それを風呂釜に溜めて風呂に入ってる。もし必要なら貸してあげるよ」

って言ってくれてたんだ。
うちには湯沸かしポットが無くて、俺はともかく2週間も風呂に入ってない嫁が可哀想になってきたから、ある時その同期に

「ホントに湯沸かしポット貸してもらえる?」

って聞いたんだ。
そしたらそいつが露骨に嫌そうに

「貸してもいいけどいつ返してくれるの?俺もそれがなかったら風呂入られないから、今日中に返してくれるなら貸してもいいけど」

って言ってきた。
もうその言い種聞いて呆れて腹が立って、

「じゃあいいや」

とだけ言って結局湯沸かしポットは借りなかった。

「あぁこいつはこういうヤツなんや」

ってその時ハッキリ分かった。

その件があってから俺はそいつを絶対に信じないようになったわ。
今も普通に会話はするけど、あの時のことは絶対に忘れないだろうと思う。
二度とそいつに何かを期待はしない。