まだストーカーって言葉が無かった頃のお話です。
小学生の頃、近所に引っ越してきた家族がいて、そこに10歳上の男性(以下A)がいた。

今思えばAは無職のパラサイト。
小太りで無害そうだったためか、たまに近所の子供達の遊び相手になってた。

そのA、私が中学生になるとストーキングをするようになった。
登下校時についてくる(下校時は門の近くの文房具屋で待ち伏せ)、家のそばをウロウロする、土日に出かけると追いかけてくる(もちろん撒く)、手紙や飴玉を渡してくる。
飴玉は捨てて、手紙は最初だけ読んで2回め以降は読まずに捨てた。

手紙の内容は支離滅裂で意味不明、長文で告白ですらなかった気がする。
宇宙とか過去と未来とかなんとか。
告白だったのかも知れないが、それはそれでアウトだった。
うちの両親がAの両親にクレームをするも、Aの両親は

「まあ子供のすることですから」

と話にならない。

「20代なかばは子供じゃないだろっ」

と両親は呆れたが、A両親はどうも

「嫁を貰えばAはしっかりする」

と考えていたらしい。
ある時庭にAが侵入してて母が警察を呼んだ。
しかしAは

「投げたボールが庭に入って取りに来た」

と言い訳をし、警察もなあなあで済ませた。
うちは祖父の代から住んでる土地で引っ越すのも納得がいかないし、私も転校は嫌だったから、自衛するしかなかった。
洗濯物を干す時も庭は避け、家や学校の出入りも裏口や裏門を駆使し、暗くなってからは一人で出歩かないようにしたりした。

それでも危険を感じた私は、自宅よりも学校にほど近い叔母(独身一人暮らし)宅に住まわせて貰って学校に通うようになった。
叔母宅は新興住宅地で新しい家だし、自宅に比べて周りに住んでる人の目も多いので多少安心だった。



そうして不安な日々を過ごしているある日、Aが死んだ。
なんと私が叔母宅にいることを知り、叔母宅の裏の山から侵入を試みて滑落死したらしい。

新興住宅地は山を切り開いて造成されていて、裏の山の半分をほとんど垂直に削って崖状になっていた。
Aは何を考えたのか、深夜その崖を降りて私のいる叔母宅に侵入しようとしたらしい。

人に見られる可能性があるとはいえ、叔母宅は要塞でもなんでもなく、侵入自体は正面からでもなんなく出来る。
防犯カメラとかいった気の利いたアイテムも無い時代、おそらく人目を避けるためだけに20mはありそうな崖を落ちていったAの存在が衝撃だった。

その後、Aの死は事故ということで決着した。
ほんの最初だけ事件じゃないかとも思われていたが、うちから警察への相談実績から速攻で

「これこれこういうこと(=いかがわしいことを考えて自滅した。よくある事らしい)だろう」

ということになった。
A両親はもの凄く意気消沈してしまい、一応葬式に顔を出した父によれば2人とも呆然としていたらしい。
一度A両親に出くわしたが、

「あの子(A)のお墓参りに来てほしい」

とか寝言をほざいたので

「ロリコン野郎の墓なんか誰が行くかキモっ」

と唾吐いて逃げた。

1年くらいしてAの事故死の経緯が噂で広まり、A両親は数年後引っ越して行った。
遠く離れて住んでたAの兄に引き取られていったらしい。Aの墓はそのままだとか。
A兄の存在は引っ越しの挨拶(うちには来てない)で初めて語られ、

「Aの話ばっかりしてたから一人っ子だと思ってた」

と近所の人が驚いてた。
噂が広まったのはAの遺品が普通のゴミに出されて、そのゴミにロリコン雑誌の束があったのがきっかけ。
元々A両親は近所の人にも悪びれず

「(私)ちゃんをうちのAの嫁に~」

と言いふらしてたので皆すぐ信じた。
ちなみに噂のソースは私。
事件のことを話すのはよくない尾ひれ(特に私に関して)がつくからと止められてたが、一周忌を過ぎてA両親が妄想じみた話(Aと私が許嫁だったとか、相思相愛だったとか)を一部の人にするようになってたので、牽制の意味をこめて事実関係を暴露したけど、A両親の孤立など思いのほか効果があった。