自分が住んでいるのは中国地方のある県庁所在地。
ある日、九州から中国地方にかけては酷い嵐だった。
滝のような雨を横殴りにする強い風。
厚く垂れこめた黒い雲にところどころ亀裂が入り、そこから差し込む太陽の光で、大雨なのに奇妙に明るかった。

自分は持病があり、月1の病院の予約が入っていたため、父に運転してもらって朝から嵐の中を出かけていた。

その帰り道。
雨風はますます激しくなっていた。
父が突然

「あの女のひと、ベビーカー押してないか?」

と言う。
右手の歩道を見ると数十メートル前に確かに女性の後ろ姿が見える。

Tシャツにスカート姿で野球帽みたいなキャップを被っていた。
彼女がベビーカーを押しているのが、助手席の自分からは、はっきり見えた。




こんな嵐の中では傘なんか無意味だけど、だからといって平然と普段着で出歩くなんておかしな人だと思った。

「まさか赤ちゃんは乗ってないよね」

と2人で話しながら、ゆっくりとその女性を追い抜く。

「…」

ベビーカーから乗り出す小さな頭、赤ちゃんの小さな手が伸びて、動いているのが見えた。

「赤ちゃん、乗ってるよ!」

思わず叫んだ。
暴風雨の中、妙に明るい空の下を悠々と女性はベビーカーを押しながら歩いていく。

非現実的な光景で、すごく衝撃的だった。
なんとかしないとて慌てふためく自分に父は

「あのまま歩いていけば、大きな警察署の前を通るから警察がなんとかするだろう」

となだめた。