私が学生時代、居酒屋でバイトしてたときのこと。
一人でカウンターで飲んでたおじさんが席を立ち、私の方へ来てニコニコしながら話し掛けてきた。
内容は支離滅裂で、

「これからは中国の時代だ。あとのことはよろしく頼むよ」

みたいな。
私の両手を握りながら、とにかくニコニコ笑顔で上機嫌。
いつもなら

『手なんか触られたらウザイ!』

って思うけど、とても楽しそうに話してるので、

『アハハ、酔ってるんだなこの人』

と私も笑いながら、うんうんと聞いてた。
それを見かけた店長に仕事を言いつけられたので、その場を離れたけど、その人の席をチラッと見たら、ビールも料理もほとんど手をつけてなかった。
おじさんはその後、すぐに帰っていったらしい。




次の日の早朝、店長のもとに警察から電話があった。
前日の夜中に、店の近くの交差点で初老の男性が倒れており、病院に運ばれたがすぐに息を引き取った。

調べてみると、発見されたときよりもっと早い時間に、どこかで頭を打った形跡があった。
財布の中に店のレシートがあったので、

「来店時になにかおかしな様子はなかったか」

とのこと。
つまり、どこかで頭を強打→来店→店を出てすぐ倒れた、ということらしい。
だから言動がおかしくなってたのか。

「あとのことはよろしく」

とか言ってたのも、何か意味があったのか。
あんなにいい笑顔をしてたおじさんが、すでに死ぬことが決まってたなんて。

『もしあのとき私が、おじさんが頭をケガしてることに気付いてたら、もしかしたら間に合ったかもしれない…』

と、しばらく考え込んでしまった。