知り合いであるOさんの話をまとめてみた。

ある夏、Oさんが夕方仕事から帰ってくると、Oさんのアパートの前の道に女がいた。
何だか外見がぼさぼさしている。
顔が分かるか分からないかくらいの距離まで近付くと、こちらに背を向け、そそくさと去っていった。
金属のようなものを持っていたのがちらりと見えたという。

それから数日ごとに、その女を見るようになった。
見るのは必ず夕方頃。
必ず金属のようなものを持っている。
そして必ず去っていく。
顔はよくわからない。

『もしかして俺がつけられてるのか?』

とも思うようになったという。




日曜の夕方、Oさんは家にいて、暑いので窓を開けていた。
窓からはアパートの前の道が見える。

『もしかしたらあいつが来るかもなあ』

と外を見ていた。
案の定、来た。

服装は違っても、もうOさんは雰囲気でわかるようになっていたらしい。
身をこごめ、観察することにした。

顔を見ると、何だか不細工な女。
顔がむくれていた。
やはり金属を持って、何かくりくりしていたという。
やや時間が経って、他の人が道を通りがかり、女はすぐに去った。

『去るのは俺だからじゃないんだな』

と思って安心したという。
Oさんはだんだん仕事が忙しくなって帰りが夜遅くにまでなり、会社に泊まる事も増え、その女の姿をみることはなくなった。

だがある日、夜帰ると、アパートに設置してある掲示板に「不審者注意」と手書きの張り紙が張られていた。

『先日このアパートの郵便受けに血のついたコンパスが投入される事件が発生しました』

とあった。

「事件以前から不審な人物が目撃されていました。外見は・・・」

一致している。

「およその出没時間は・・・」

一致している。
間違いなくあの女。
逃げるように去っていった女。

あの金属はコンパスであり、くりくり・・・としていたのは手をくりくりしていたんだと。

後日、そのアパートから、引っ越し業者が荷物を運び出していたという。
Oさんはその後もしばらくそのアパートに住んでいたそうだが、それ以降その女は見なかったという。