上京して一人暮らしがようやく馴染んできた昨年、思い出したくないがおそらく一生忘れられない出来事がありました。

家に洗濯機がないため、週に一度、近場のコインランドリーを利用しています。
24時間オープンのとこでもあるため、仕事がら洗濯を利用するのはいつも日曜日の夜中になります。

そして日曜日のいつもの時間に決まって顔を合わせるよく喋るおっちゃんがいます。
片手にはワンカップを常に持っており、笑いながらも愛嬌のある顔でよく喋ります。

このおっちゃんも僕と同じ洗濯のペースでコインランドリーを利用していると打ち明けていたため、実際に毎週日曜日の夜中2時頃に決まって顔を合わせます。
話自体はくだらなく幼稚なのですが、何だか妙に憎めないおっちゃんで、洗濯が終わって乾燥機が終了するまでの間、毎週ずっと喋っています。
すでに友達という仲にまで発展しており、おっちゃんとの会話を楽しみにコインランドリーを利用するようになりました。




そんな中、いつも元気なおっちゃんが妙に暗く、何か一人でブツブツ言いながら僕が来たのも気づかずに、ひたすら自分の世界に浸っている日がありました。
相変わらず片手にはワンカップを持っており、すでに何杯か引っ掛けてきたようなアルコール臭がしました。

「今日は何だか変ですね」

と初めて僕の方から話かけたのですが、その声を聞いてようやくおっちゃんが僕がコインランドリーに来たことに気付き、いつもの笑顔を振りまいてくれました。
それからおっちゃんは続けて、

「面白い物を見せてやる」

と無邪気な子供のように言い、一度外へ出たかと思うと、見たことあるような赤いガソリン入れを取り出し、おっちゃんの頭自らドボドボとガソリンすべてをかけていきました。

おっちゃんはいつもの笑顔で満足そうに笑っていましたが、流石に飲みすぎた反動でこんな馬鹿な真似をするとは呆れたという思いで僕は嫌な気分でした。
するとおっちやんは聞いたことの無いような声のトーンで、

「もう駄目だ・・。」

とようやく聞き取れるような声で呟きながら目線を僕に戻し、今度は笑いながらガソリンを被った自分自身に火を付け始めました。
火は一瞬でおっちゃんの体を包みこみ、笑いながら外へ猛ダッシュを始めたおっちゃんは不気味そのものでした。

今起こった事に頭の整理が追いつかず、しばらくポカンとしていましたが、マジでやばい状況だと判断してからは後を追いかけました。
おっちゃんはコインランドリーから50mほど先の道路でうつ伏せになって倒れていました。

すでに誰かが通報してくれたのか、しばらくしてから救急車やパトカーが駆けつけました。
おっちゃんにどんな問題があったのかは知りませんが、人生の最後に会話を交わしたのは間違いなく僕で、最後に目を合わせたのも間違いなく自分でした。

人の死とは火の勢いよりも先に燃え上がるものだと仲の良かったおっちゃんを回想しながら思いました。